REIONがグッドデザイン賞を受賞しました

おしぼり冷温庫「REION」が2018年度グッドデザイン賞を受賞しました。おしぼりを扱う 業界にとって初となる受賞にあたり、FSX株式会社代表 藤波克之とプロダクトデザイナー 小関隆一からのコメントをご紹介します。

REION GOOD DESIGN
デザイン志向を持った製品開発を続け
おしぼりを通じたおもてなし文化を世界へ発信

FSX株式会社  代表取締役社長 兼 最高経営責任者  藤波 克之

このたび、弊社のおしぼり冷温庫「REION」が、「2018年度 グッドデザイン賞」を受賞できましたことを、非常に嬉しく思っております。この場を借りて関係者の皆様にお礼申し上げます。

昨今、日本でのおしぼりの認知度は高く、弊社で実施したアンケートでも「おしぼりが大好き」という人が多数を占めています。一方で、業界については“顔の見えない産業”というイメージが根強くあります。おしぼりやおしぼり庫は価格が優先され、「とりあえず提供するのが普通だから」と、飲食店などでさほど意識せず導入されることも少なくありません。 以前は弊社でも、中国で製造したOEMのおしぼり庫を輸入し、日本で“安く・多く”販売することを重視していました。これが業界の常識でしたが、それゆえに「使い捨て」や「デザインは二の次」といったネガティブなイメージを払拭できずにいたのも事実です。
しかし、今後を考えると、産業に対するイメージを向上し、おしぼりに携わる方々の意識を前向きに変えていくことが不可欠です。そのためには、日本でデザイン・設計・製造された高品質な製品の創出と、既存市場のみならず、フィットネスやオフィス、家庭といった新しい市場や海外も視野に入れて拡販していくことが必要だと考えました。
なにより、私自身がそうした新事業に挑みたいと思い、本格的に日本製のおしぼり冷温庫の開発を決めました。

これまでも弊社では、「人から共感してもらうこと」「良いと思ってもらうこと」を念頭に、おしぼりに関する商品を開発してきました。冷温庫に初めてチャレンジする今回は、見た目だけで誇張するのではなく、長く人々から愛されるような製品をめざしたいと思い、デザイナーを探しました。

小関デザイナーに初めてお会いしたときに感じたことは、彼が生み出すプロダクトの、生活の中に溶け込むデザインの可能性でした。彼となら、これまで見たことのない、一般の家庭にまで受け入れられるような新しいおしぼり冷温庫をつくれるのではないか。直感でそう感じて依頼をしたことを覚えています。 いざ開発が始まると、弊社の経験不足もあり、困難の連続でした。小関デザイナーをはじめとする開発チームにはご迷惑をおかけしましたが、今回の経験は、私を含めた弊社のメンバーが多くの経験をすることができ、会社にとって貴重な財産となっています。

おしぼりというものは、人々の身近な存在で、主張はしないものの使うとほっとする、安心感あるホスピタリティを代表するツールです。この受賞を機に、一人でも多くの方におしぼりの良さが伝わるようになればと願っています。そして、おしぼりを通じたおもてなしを創造する企業として、デザイン志向を持ったアプローチを続け、より良い製品開発に努めてまいりたいと考えております。

“一歩引いた、主張しない佇まいと安心感”
おしぼり同様のあり方を目指したプロダクト

プロダクトデザイナー 小関 隆一

おしぼり業界にとって初となるグッドデザイン賞受賞とのことで、大変嬉しく思っております。

飲食店をはじめとする多くの施設でおしぼりが提供されているものの、おしぼりにまつわるプロダクトが適切にデザインされている印象はほとんどありませんでした。この現状こそが、おしぼり冷温庫に挑戦しようと思った一因でした。そしてもう一つ、私の背中を押したのは、デザインが行き届かないことが半ば慣習化しつつあった業界に風穴を開けようと挑戦する、FSX藤波社長の熱意でした。

REIONは、おしぼりのあり方と同じく、主張するのではなく一歩引いた存在になるよう、極力デザインの意図を感じさせない薄い箱を目指しました。ただし、操作系の扱い方だけはユーザーとの直接的な接点ということで少し目立たせるようにしました。おしぼりから想起されるアナログ感と、例えばメンブレン(※)を使ったようなデジタル感やハイテクなインターフェイスがそぐわず考えあぐねたのですが、ダイヤルスイッチを一つ設けることで解消。操作のしやすさは格段に上がり、おしぼり機器にふさわしいUX/UIになったと思います。
本体から少し凸になるように備えたダイヤルは二段に積み重ねた際も操作でき、庫内の状態が一目で分かる安心感も加えられました。 また、樹脂製の躯体はどうしてもチープな印象を持たれがちなため、樹脂特有の厚みを感じさせない作りにしました。具体的な処理は言われなければ気がつきにくいかもしれませんが、おそらくそうしたディティールを持たなかった場合、“10%の違いには90%の人が気づく”という法則もあることから、今のような重厚感ある姿とはかけ離れたものになっていたかもしれません。結果的に、どんな場所でもそっと馴染む、ノイズの少ないプロダクトになったと思います。

このプロジェクトで最大の難関だったのは、技術者集団の中で、当初から描いていたREIONの「あるべき姿」のイメージを崩さず、いかに共有していくかということでした。 デザインをシンプルにしようとすればするほど、設計上のハードルはどんどん上がっていき、生産性だけが先走ってしまっていることもありました。デザインを「コスメティックデザイン」として「側」として扱う、とくに弱電の製造業に関わる際の、デザイナーにとって落とし穴のようなポイントが多々ありました。
もし姿形を示すだけで終わっていたら、グッドデザイン賞はおろか、従来品と大きな差別化を図れない製品になってしまった可能性もあります。問題が発生するたびに議論を交わし、デザインの役割は何なのか、「何のために開発をしているのか」まで立ち返り、粘り強く工夫を重ねたことによって目的を達成するプロダクトになったのだと思います。

ハードウェアメーカーではない企業が、電気と熱などを扱う製品を新たに開発し、販売していくというのは簡単なことではありませんが、このプロジェクトは藤波社長の熱意があってこそ実現したのだと思います。そして「REION」の誕生は、おしぼりやおもてなし文化の発展に繋がるはずだと信じています。FSXさんの掲げる理想が具現化することを願いつつ、このような事例がさまざまな企業にとって刺激になることを期待しています。

※洗濯機などにある、スイッチの上の透明の膜に印刷を施したようなもの。下に仕込んだLEDの効果を見せつつ防水効果が高く、仕様変更の際に印刷を変えるだけで済むなどのメリットがある。